竹取物語外聞

竹取物語外聞
かぐやが去ってから二年が過ぎた。満月になると媼は泣いている。翁は桶に水を張り照る月を映して、時々その月に手を触れさせたりして慰めていた。
そんなある日帝からの使者が訪れた。富士山の頂上で祝詞を読み上げるが、かぐや姫に伝えたいことがあれば一緒に読み上げてやる、と。二人は帝が今もかぐやのことを忘れておられぬと感動した。使者に思いを込めた文を託した。
翌年秋の名月が過ぎて数日後、表門から門番の荒げた声が聞こえてくる。翁が門に出て「どうした?」と聞く。門番が「申し訳ありません、この女が・・」と指さす先に白装束の女が立っている。翁をじっと見ている。歳は40半ばのようだ。「何か御用ですかな」翁が問うと、女は涙を流し首を左右に大きく振ってその場に立ち竦んだ。翁が女を家に招き入れた。
部屋に入ると懐かしそうに調度品を見廻してから震える声で「かぐやです。お久しゅうございます。爺様」「かぐや・・」翁の驚いた声に媼も来た。「かぐや・・どこにかぐやが・・」「私がかぐやです。婆様」媼もかぐやと名乗る女を見て言葉を失った。女を凝視してから信じられないという表情をし、「そんなはずがない、かぐやは二十歳、あなたは40越えていようが」強く否定した。かぐやはその場に泣き崩れ乍ら「月の民はこの星が一年なら十年を数える、月では25年過ぎていたのです」
媼は赤子から童にあっという間に大きくなったことを思い出した。
「ある日帝と爺様婆様の心の声が聞こえて来て、もう一度お会いしたくて懐かしくて・・でも、月の決まりでは二度目は許されず、つてを頼りにやっとここに・・」かぐやが顔を上げ媼を見つめる。媼はかぐやに駆け寄り抱きしめた。だが、抱きしめた手をそっと外して後退りした。
「お前はだれ?」「だから、かぐやです。婆様」「男が何を言う」
「月では50近くになると男に変わるのです。まだ私の体は半分女です。信じて、かぐやです」弁解するかぐやを冷やかに見て、「物乞いか、かぐやを名乗るとは。かぐやの思い出をズタズタにして・・許せぬ」
取り縋る女の手を振り払い、媼はその場から去った。女は床に崩れて動かない。翁は女に寄り添いもせず、立ったままで「例えお前がかぐやでも否多分違うだろう。新手の詐欺か。他人の思い出を汚すのは許されない。とっとと出て行け。二度とかぐやと名乗るな」と語ると門番を呼んだ。
月に戻れないかぐやがその後どうなったかは知らない。
             By harukanaumi